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ラベル マスコミに取り沙汰された単語たち の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
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2024年11月22日金曜日

looksmaxxing

Collins Dictionaryの2024年Word of the Yearの候補になった単語を特集しています。

3日目に取り上げるのは、


looksmaxxing


というちょっと変わった単語です。スペルから意味の想像がつきそうですが、外観(looks)を"maxxing"とは、最大化する、つまり実際以上によく見せるという意味でしょうか。

果たしてその定義は、


attempting to maximize the attractiveness of one’s physical appearance
(Collins Dictionary)


となっています。

ネット、とりわけSNSでいわゆる「映える」画像を投稿するというのが主流です。

"looksmaxxing"もその類いのトレンドと言えそうですが、見映えを良くするために整形手術的なことまでするとあっては、単に人目を引く写真を撮影し、それに編集を加えるというのとはまたレベルの違う話のようにも思われます。


Looksmaxxing has existed for at least a decade, but has exploded in recent months from obscure forums and Reddit pages into mainstream social media – and TikTok in particular. Impossibly chiselled jaws, pouty lips and cheekbones as high as the Egyptian pyramids are prized, along with “hunter” eyes (those angled slightly downwards towards the nose – a positive canthal tilt).


Looksmaxxing influencers have gained huge followings, while algorithms promote videos watched by millions.
(Simon Usborne. From bone smashing to chin extensions: how ‘looksmaxxing’ is reshaping young men’s faces. The Guardian. February 15, 2024.)


SNS で賞賛される痩身のモデルのような写真が女性の過剰な痩せ願望を助長し、摂食障害の原因にもなっているという話題を以前取り上げたことがあります。

"looksmaxxing"はその男性版でしょうか。


2024年11月20日水曜日

brat

今年ももうそんな時期か・・・、と思うこの頃です。Collins DictionaryによるWord of the Yearが先日発表されました。

大手の辞書サイトが年末にかけて発表するWord of the Yearを毎年ウォッチしています。

2024年の1語は、


brat


だそうです。


Collins Dictionary declared "brat" — the album title that became a summer-living ideal — its 2024 word of the year.

The word, used by singer Charli XCX as the title of her sixth studio album, has been defined as "characterized by a confident, independent, and hedonistic attitude."

Collins lexicographers said on Friday that in the phrase "brat summer," it became "one of the most talked about words of 2024."

"More than a hugely successful album, 'brat' is a cultural phenomenon that has resonated with people globally, and 'brat summer' established itself as an aesthetic and a way of life," the dictionary said.
(Collins Dictionary's 2024 word of the year is "brat." Here are the 9 others that were finalists. CBS News. November 1, 2024.)


人気歌手のアルバムのタイトルに使われたことから人気を得た言葉だそうですが、記事の解説によれば"brat"というのは独立自由で、快楽主義的な生活態度のことを指すらしく、これが多くの人、特に若い女性の共感を得たようです。

"brat summer"というフレーズが特に流行ったそうですが、この流行語の時流に乗ったのは刹那的な若者に留まりません。

アメリカ大統領選を撤退したバイデン大統領の後を継いで、カマラ・ハリス副大統領が名乗りをあげましたが、くだんの人気歌手がハリス氏への支持を表明したことをきっかけに、支持者らの間でハリス氏を"brat"とするSNSの投稿が増加するという、ある種の現象が発生しました。


Kamala Harris has overhauled her campaign's online presence by embracing a social media trend inspired by pop star Charli XCX's Brat album cover.

(中略)

By Monday morning, Ms Harris had seized on Charli's backing - with the account sporting a new lime green photo in the style of the Brat album cover.

(中略)

Charli told the BBC's Sidetracked podcast that brat is a concept that represents a person who might have "a pack of cigs, a Bic lighter and a strappy white top with no bra".

It has been deemed by some pop critics as a rejection of the "clean girl" aesthetic popularised on TikTok, which spurned a groomed ideal of femininity, and instead embraces more hedonistic and rebellious attitudes.
(Lucy Clarke-Billings. What is Kamala Harris's 'brat' rebrand all about? BBC News. July 22, 2024.)


副大統領のハリス氏がなんで"brat"?という疑問はあるのですが、力強い女性の象徴みたいに祭り上げられた、というところかと思います。

綺麗で優等生的な女性ではなく、ちょっとツッパっている、他人に依存することなく我が道を行く、みたいな女性像が"brat"ということで、フェミニズムの一種とも言えるかと。

新聞やテレビなどの確立したメディアを凌ぎ、SNSが選挙の結果を左右する世の中ですが、ハリス氏の"brat"は得票にはつながらなかったようです。



2024年5月22日水曜日

Reich

今年行われる大統領選で返り咲きを狙うトランプ元大統領の陣営がSNSに投稿したキャンペーン動画が物議を醸しているということです。

問題の動画は既に削除されたということですが、トランプ氏が大統領に選出されたあかつきには米国内の産業を再興させることを主張するような内容だったそうです。問題は、動画に出て来た、


Reich


という単語だといいます。


Donald Trump’s social media account on Monday shared a video referencing a “unified reich” in a post about how the country will change if he becomes president again.

His campaign said a staffer did not see the word “reich” before it was posted — an explanation President Joe Biden’s team blasted on Monday night.

In the video shared on Trump’s Truth Social account, while a narrator described “What happens after Donald Trump wins,” the screen twice flashed to a headline showing the words “Industrial strength significantly increased … driven by the creation of a unified reich.”

The German phrase “reich” refers to an empire, but also carries the connotation of Adolf Hitler’s “Third Reich,” another name for his Nazi regime.
(Natalie Allison. Trump’s social media account shares video referencing ‘unified reich’. Politico. May 20, 2024.)


"Reich"という単語はドイツ語で、帝国という意味です。

この言葉は、ヒトラーがナチ政権をDrittes Reich(the Third Reich; 第三帝国)と呼んだことから、ファシズムを強く想起させるものがあります。

問題の動画は、もしトランプ氏が再選されたら・・・、というようなイントロで始まるのですが、背景に第一次大戦時の新聞を模したようなイメージが使われ、その中に、


Industrial strength significantly increased … driven by the creation of a unified reich.


という見出しが見えるというものです。

文字は薄く、かすれたようになっており、言われないと気付かないようにも思われるくらいですが、バイデン陣営は(目敏くも!?)この単語を取り上げて、トランプはヒトラーの言葉を使い、独裁政権を築こうとしていると批判を展開しました。

ドイツ語の名詞は大文字で始まりますので、英和辞書のエントリも"Reich"となっているものがほとんどですが、引用記事中の記載は小文字になっていますね。

一方、発音についてはドイツ語の発音「ライヒ」に併記する形で、英語発音「ライク」としており、CNNなどの映像でも「ライク」と発音しています。


2024年3月19日火曜日

bloodbath

トランプ元大統領の発言が物議を醸しています。

問題になったのは発言の中で出てきた"bloodbath"という単語。

トランプ氏は、自身が大統領に選出されずバイデン氏が勝つようなことがあれば、"bloodbath"になるだろう、と発言。

映像などを見た訳ではありませんが、議論が白熱して、同氏が激高している様子が想像されます。


Rep. Mike Turner said Sunday it was clear that former President Donald Trump’s reference to “a bloodbath” should he lose the November election pertained to the auto industry, not to a surge of political violence.

At a rally in Ohio on Saturday, Trump said, “Now, if I don’t get elected, it’s gonna be a bloodbath. That’s going to be the least of it. It’s going to be a bloodbath for the country.”
(David Cohen. Reaction to Trump’s speech: When is ‘a bloodbath’ not a bloodbath? Politico. March 17, 2024.)


それにしても"bloodbath"とは穏やかではありません。血の海、血の池、大量の血を浴びるということです。辞書を引くと、最初に出てくる定義は、


大量殺人、大虐殺
(ランダムハウス英和辞書)


です。

俺が負けたら支持者らの暴動が発生し、多数の死者が出るぞ、そんな風に聞こえても仕方ありません。2021年1月6日に発生したワシントン議事堂襲撃事件を彷彿とさせます。

民主党のペロシ議員らはトランプ氏の発言に強く反発し、11月の大統領選は絶対に負ける訳にはいかないとコメントしたということです。

ところが、引用記事にありますように、トランプ氏擁護の関係者らは、"bloodbath"という言葉はアメリカ自動車産業の保護というコンテクストで出てきたもので、その意味合いは経済の大不況というものである、と援護しています。

なるほど、American Heritage Dictionaryを引くと、


A situation, such as a stock market crash, in which many investors suffer great losses


という定義がみえますし、ランダムハウスにおいては従業員などの大量解雇という意味も載っています。

"bloodbath"という言葉が、著しい経済不況とか、市場の混乱による経済への大打撃、という意味合いで使われるというのは確かなようです。

トランプ氏の発言はアメリカの自動車産業を守るため、海外からの輸入車に100%の関税をかける、という主張を展開する中で飛び出してきたようですが、同氏の過激、苛烈な性格故、人の血が流されるというイメージが先行してしまうのも仕方ないのかもしれません。

2023年12月7日木曜日

rizz

師走始め、日本では流行語大賞、英語圏ではメジャーな辞書が発表するWord of the Yearの時期です。

オックスフォード辞書が2023年のWord of the Yearを発表しましたが、その1語は、


rizz


だそうです。


The Oxford University Press announced Monday the 2023 Word of the Year is "rizz."

A slang word popularized by social media, rizz was chosen from a pool of eight words by language experts with input from the public.

(中略)

"Rizz" is believed to be short for "charisma," describing one's ability to flirt and attract someone romantically. It can be used as a noun or a verb, depending on the context.
(Kinsey Crowley. 2023 has got 'rizz': Oxford announces the Word of the Year. USA TODAY. December 4, 2023.)


日本語に訳しにくいと思われますが、"rizz"とは異性を惹きつける魅力、というような意味合いを持つ表現だということです。

カリスマ(charisma)という単語から来ているらしく、発音の強勢が置かれる部分だけが取り出される形で生まれた単語と言えるでしょう。(以前取り上げた"rona"は同じような形成による単語になると思います。)

"rizz"の用法としては動詞、名詞の2つがあります。


To rizz is someone is to attract or seduce them, Oxford defines.

To have rizz is to have the ability to charm others through communicating.
(ibid.)


流行り言葉の「モテ期」ではないですが、モテる資質、といったところでしょうか。


2023年11月21日火曜日

eliminate

来年行われる米大統領選において依然有力な候補と目されるトランプ氏について、民主党のゴールドマン議員の発言が取り沙汰されています。

トランプ氏を再び大統領にしてはならない、という趣旨の発言だったようですが、トランプ氏支持者や保守派などからの批判がSNSを中心に炎上し、ゴールドマン議員は謝罪に追い込まれました。発言中、不適切な表現があった、という謝罪なのですが・・・。


A Democrat congressman is walking back a comment he made against former President Trump over the weekend that sparked a social media firestorm.

"Yesterday on TV, I mistakenly used the wrong word to express the importance for America that Donald Trump doesn’t become President again," Rep. Daniel Goldman of New York posted on X on Monday. 

"While he must be defeated, I certainly wish no harm to him and do not condone political violence. I apologize for the poor choice of words."
(Andrew Mark Miller. New York Dem backtracks after calling for Trump to be 'eliminated'. Fox News. November 20, 2023.)


同議員のコメントの、どういう表現に問題があったのでしょうか?


"His rhetoric is really getting dangerous," Goldman said during an interview with President Biden's former press secretary Jen Psaki on her MSNBC show.

"More and more dangerous. We saw what happened on January 6th, when he used his inflammatory rhetoric now, and his recent truth social post is incredibly, incredibly scary for anyone that might be trying to work in government. And it is just unquestionable at this point that man cannot see public office again. He is not only unfit, he is destructive to our democracy, and he has to be eliminated."
(ibid.)


ゴールドマン議員の発言の流れとしては、前回大統領選後に発生した、トランプ氏支持者らによるワシントン議事堂襲撃事件を引き合いに、その後もトランプ氏の言動がさらに危険なものになっているとして、大統領候補に相応しくないと断じるものだったようです。

問題になったのは(記事のタイトルに書かれていますが)、


he has to be eliminated.


の"eliminate"という動詞です。

"eliminate"という動詞は、排除する、除去する、という和訳がまず思い浮かびますが、確かに強い表現ではありますが、さほど不適切な表現とも思えないというのが正直な感想でした。特に、トランプ氏がこれまで政敵やメディアに対して行ってきた数々の過激な言動を思い起こすならば、そのトランプ氏に対して、「排除されるべき」と言ったところで、当のトランプ氏は意にも介さないのではないかと思われたのです。

ところが、"eliminate"という動詞は「殺す」という意味でも用いられ、ここで問題になっているのはまさしくその意味合いであるらしいことが見えてきました。

別記事ではゴールドマン議員の発言の"eliminate"がトランプ氏の暗殺をほのめかしているとの批判があると伝えています。


Conservatives on X were outraged by Goldman’s comments, with some arguing that the lawmaker was alluding to assassinating the former president. 
(New York Post)


改めて辞書を引いてみますと、"eliminate"の意味に「殺す」という意味合いを載せているものと、そうでないものがあるようです。

手元にある英和辞書では、研究社新英和大辞典には載っておらず、ランダムハウス英和では俗語表現として載せていました。

American Heritage Dictionary、Merriam-Webster(オンライン)には見当たりませんでした。Oxford Dictionaryのサイトでは、"eliminate"のこうした意味合いを婉曲表現(euphemism)としています。

それで、手元にあるOxford Dictionary of Euphemismsを見てみますと、以下の解説です。


eliminate  to kill.
A variant of LIQUIDATE with the same origin and the same connotations, usually of political or espionage killings.


"eliminate"の排除するという意味も強い表現ではありますが、政治のコンテクストでは政敵の暗殺をほのめかす表現だというのは知りませんでした。


2023年11月2日木曜日

revocable

トランプ前大統領が経営する不動産会社における財務粉飾や保険金詐欺などの疑いで、トランプ氏をはじめ、経営に関与しているトランプ氏長男ら家族が訴えられている裁判の公判が詳報されています。

長男のトランプJr.が証言に立ちましたが、自身は経営や財務に関することは専門的な知識を持ち合わせておらず、会計士に任せていた、と証言し、直接的な関与を否定したようです。

公判のやり取りを伝える記事中、"revocable"という単語の発音を巡って応酬があった、との興味深いくだりがあります。以下、引用します。


He also got into a round of banter with Manhattan Supreme Court Justice Arthur Engoron and AG lawyer Colleen Faherty, about the pronunciation of the work “revocable.”

Faherty asked Don Jr. what the “Donald J. Trump Revocable Trust” was, prompting Engoron to interject: “Now that we finally have a trustee in the courtroom, we can finally ask if it is revocable or revocable.”

“Your honor, it’s a good question, but I’m not sure which is actually correct,” Don Jr. answered.

Faherty then asked a question using the pronunciation revocable, to which Don Jr. joked, “I’m not sure what that is, I only understand revocable” — prompting yet more chuckles from the gallery.
(Donald Trump Jr. cracks jokes, draws courtroom laughter during 75-minute testimony at $250M fraud trial. New York Post. November 1, 2023.)


New York Post紙の記事は、


revocable or revocable


と記載しています(!?)

非常に細かく、見逃してしまいそうですが、"revocable"という単語のスペルで、最初の方は -voc-  の文字がイタリック(斜体)になっており、2番目の方は rev- がイタリックになっているのにお気付きでしょうか?

つまり、"revocable"という単語の発音について、アクセントを第2音節に置くのか(すなわち、revocable)、それとも第1音節に置くのか(revocable)で揉めた、ということなのです。

"revocable"の発音については辞書を引いていただければ分かりますが、


revocable
revocable


どちらもあり、です。(かつての大学入試センター試験の英語で定番だったアクセントの位置を問う問題では"revocable"は使えないのね、などと思ってしまいました。)

ちなみにここで出てくる"revocable trust"とは「撤回可能信託」とかいう概念らしく、小生もトランプJr.氏同様、専門家ではないので(笑)、詳しい説明はご容赦を。


2022年12月7日水曜日

goblin mode

先日、Collins DictionaryのWord of the Year 2022を取り上げたところですが、今日はOxford University PressによるWord of the Yearが発表されていました。

2022年のWord of the Yearに選出されたのは、


goblin mode


です。


The existence of the term “goblin mode” had somehow escaped me until last month, when it appeared on the Oxford English Dictionary compilers’ shortlist for word of the year. It also seemed to have escaped The Irish Times archive, in which it hereby makes its debut.

But the phrase was already sufficiently popular in certain places that it has since beaten the other word-of-2022 candidates, “metaverse” and the hashtag “IStandWith”, to win a public vote of OED readers.

(中略)

People in goblin mode were and remain typically sitting on the sofa, slightly drunk or eating pizza, or both, while wearing pyjamas.
(Frank McNally. Going Goblin – Frank McNally on the slovenly rise of ‘goblin mode’. Irish Times. December 6, 2022.)


Oxford Dictionaryの定義では以下のようになっています。


Goblin mode
 
Goblin mode’ – a slang term, often used in the expressions ‘in goblin mode’ or ‘to go goblin mode’ – is ‘a type of behaviour which is unapologetically self-indulgent, lazy, slovenly, or greedy, typically in a way that rejects social norms or expectations.’


つまりは、人目を憚らない、自堕落な生活モード、ということになりますか。

ゴブリン(goblin)というのはヨーロッパの民間伝承に伝わる小鬼のことで、人間に悪戯する存在とされていますが、自堕落な生活モードに結び付けるのはどういう理由なんでしょう。

“goblin mode”、“going goblin (mode)”という言い回しは2009年頃からSNSで流行したそうです。その後、パンデミック下、ロックダウンの生活を余儀無くされる中でこの言葉が再び流行したことが今年の単語に選出された背景にあります。

主に外出や人が集まることが制限される中で、パンデミック以前は当たり前だったこと、例えば、毎日決まった時間に起床し、装いを整え、通学、通勤し・・・、といった、規則正しさ、「当たり前」が、そうではなくなりました。

「当たり前」を“normal mode”とすれば、“goblin mode”はその対極にある生活態度ということになるでしょうか。

先日、WHOはパンデミックの終わりが見えてきたと発表し、各国でもポスト・パンデミックの生活様式へと移行しつつあります。

現代は“normal mode”と“goblin mode”という2つのモードを使い分ける時代なのかも知れません。


2022年11月29日火曜日

permacrisis

11月も明日でお終い、明後日からは12月で2022年も残すところ1ヶ月です。

この時季の恒例ですが、Word of the Yearが発表されています。

今日知ったところでは、Merriam-Webster は2022年のWord of the Yearに"gaslighting"を選びました。が、実のところ、2018年のOxfordのWord of the Yearに選出されており、当ブログでもその際に取り上げました。

ということで、他の辞書によるWord of the Yearを見ていますと、Collins Dictionaryは、"permacrisis"という単語を取り上げています。


As nations across the globe face a plethora of ongoing crises, the Collins English Dictionary Tuesday revealed its 2022 word of the year to be "permacrisis," a term to describe such events.

"Permacrisis" is a noun defined by the U.K.-based publisher HarperCollins as "an extended period of instability and insecurity, especially one resulting from a series of catastrophic events." 

A blog post on the Collins Dictionary website by writer David Shariatmadari noted that the term rings true because of the war in Ukraine, climate change challenges, political instability and the surge in inflation. 
(Greg Cannella. Collins English Dictionary reveals its 2022 word of the year. CBS News. November 1, 2022.)


"permacrisis"は、"permanent"と"crisis"のかばん語です。危機的な状況が長く続いていることを指す表現です。


the term rings true because of the war in Ukraine, climate change challenges, political instability and the surge in inflation
(ibid.)


2022年を振り返れば、ロシアのウクライナ侵攻、気候変動による危機、(英国では)首相交代による政治不安定、またインフレ危機、と次から次へと危機が襲って来る状況を捉えた"permacrisis"という表現は腑に落ちますが、新型コロナ禍は入っていませんね!?


2022年6月9日木曜日

Latinx

最近ラテン語の勉強を再開しました。あらゆる品詞が複雑に格変化することは元より、名詞の性(男性、女性、中性)を覚えなくてはならないのが大変です。

初歩の教科書では、語尾が-aで終わる第一変化名詞からスタートしますが、例外を除いては女性名詞である、と解説されています。

そんな勉強をしているので、同じくラテン語系の言語であるスペイン語においても、名詞に同じような性質があることは理解できます。

ところが、最近、"Latinx"という単語が取り沙汰されているということを知りました。主に書き言葉で使われるようですが、発音は語尾の-xを「エクス」と発音し、敢えてカタカナにすれば「ラティネクス」のようになるそうです。

"Latinx"というのは、"Latino"でもなく、また"Latina"でもない、つまり男性、女性を区別しない、故に差別的でない表現なのだということらしいです。


Far-left Rep. Alexandria Ocasio-Cortez defended using the word “Latinx” to describe Hispanic men and women over the weekend and slammed her Democratic colleagues who she said “rail against” it — despite polling data indicating most Hispanics don’t use the term or virulently object to it.
(Callie Patteson. AOC calls out Dems who won’t say ‘Latinx’ — despite backlash to term. New York Post. June 6, 2022.)


"Latinx"と表現する他、"Latine"という言い方も同様です。

スペイン語の名詞において、語尾が-oとなるのは男性、-aは女性という規則性があるところ、これらの語尾を-x、もしくは-eで置き換えたのが"Latinx"であり、"Latine"ということなのです。


Ocasio-Cortez went on to claim that while “Latinx” is more convenient in written form, another gender-neutral term, “Latine,” is a better alternative when speaking. She also suggested both terms are comparable to the Spanish word “nosotres,” which translates to a gender-neutral “us” or “we.”
(ibid.)


多様な性自認に寛容であろうとする現代において、言語や言葉遣いに性差別的なものを見ようとする動きが顕著になっています。

一方で、こういう傾向に異を唱える人もいます。

"Latinx"という言葉について、そもそもスペイン語を母語とする当事者が好ましいとは思っておらず、性自認に寛容であろうとする一部の活動家などが推進しているに過ぎない、という意見です。


It soon became clear it was no joke. Latinx was becoming an official term on elite college campuses, popular among academics, progressives, young activists and LGBTQ groups who wanted gender-neutral terminology. (In Spanish words ending in “O” are masculine and those ending in “a” are feminine. When referring to a mixed-gender group, the plural word ends in the masculine “O,” so substituting that letter for “X” avoids preferencing the men.)
(Luisita Lopez Torregrosa. Many Latinos say 'Latinx' offends or bothers them. Here's why. NBC News. December 14, 2021.)


性自認に寛容であることは決して悪いこととは思わないものの、行き過ぎると言葉狩りのようにも感じられるということでしょう。

同じように取り沙汰されてきた単語を、当ブログでは過去にも取り上げてきました。振り返ってみます。







外国語の文法の教科書は書き換えを迫られるのでしょうか。


2022年6月6日月曜日

フェースブックCOO辞任 ー leaning in

先週でしたか、フェースブック(現メタ社)COOのサンドバーグ氏が辞任すると報じられました。

企業社会で活躍する女性の象徴でもある同氏が流行らせた言葉に、


lean(ing) in


という表現があります。


Ten years ago, Sheryl Sandberg was on top of the world.

Facebook had just gone public, making Sandberg a billionaire. She had played a major role in creating that wealth.

(中略)

While she reveled in the company's success, it was not the only project she cared about. She had recently begun to speak about the challenges women faced in the corporate world, and had landed on a solution: Women needed to seize more leadership opportunities and advocate more forcefully for themselves, an act she called "leaning in."
(Nicole Hemmer. Opinion: Sheryl Sandberg's dangerous delusion. CNN. June 04, 2022.)


"lean"は傾く、傾斜する、という意味の動詞ですが、2013年のサンドバーグ氏の著作で"lean in"がビジネス界の流行語となりました。

著作を読んだ訳ではありませんが、"lean(ing) in"の意味するところは、女性が社会進出する中で、存在感を出すためにより意欲的、積極的に取り組む、それこそ、会議のテーブルに身を乗り出して(leaning in)訴えるように、というようなことのようです。

引用したCNNのオピニオン記事ではサンドバーグ氏のキャリア遍歴を振り返りつつ、一世を風靡した"leaning in"を体現した同氏と、フェースブックが起こした不祥事、最終的には辞任による幕引きという凋落に触れています。

この表現のトレンドを捉えて、Merriam-Webster Dictionaryでは以下のような解説をしています。


Lean in became a business motto in 2013, taken from the title of the book Lean In: Women, Work, and the Will to Lead written by Sheryl Sandberg, the Chief Operating Officer of Facebook, and Nell Scovell, a writer and Sandberg's collaborator. Sandberg's book outlines business strategies to help women achieve success, and its title perfectly paints a picture of what Sandberg believes women need to do to move up in the business world: to press ahead, to project confidence, to "sit at the table" and physically lean in to make herself heard.
(Words We're Watching: 'Lean in' — Drawn from a book title, the phrase has taken on a broader meaning)


時代はオバマ大統領の政権時代、女性の社会進出が進み、また女性のキャリアと家庭生活のバランスを巡る議論が活発化し、"lean-in generation"とも呼ばれました。

恐らくは2013年頃に書かれたと思われるMerriam-Websterの解説は、"lean in"という表現について、トレンドにはなっているものの、広く使われて、意味合いとして定着するまでには至っていないとして、辞書のエントリに追加するにはもうしばらく様子を見極める必要がある、と締め括っています。

サンドバーグ氏の辞任により、辞書入りはやはり見送りでしょうか。


2022年4月7日木曜日

Great Resignation

最近巷では、"Great Resignation"という言葉が聞かれるそうです。

一体、何のことなのでしょうか?


Google’s voluntary work-from-home policy ended on Monday, April 4. Now employees who didn’t apply for an extension or permission to work from home permanently have to come into the office three times a week.

(中略)

The possible end of the work-from-home era might be fueling the Great Resignation as workers seek out more flexible companies, says psychologist Anthony Klotz, the expert who coined the term. He recently predicted that the Great Resignation could last several more years as workers continue to “sort out” their lives. At Apple, workers have expressed interest in quitting rather than returning to the office.
(Colin Lodewick. Good riddance to work from home, Google’s former CEO says? Fortune. April 6, 2022.)


リモートワークを巡る労使間の対立の話題についてはつい先日も取り上げましたが、パンデミックの収束(果たして収束するのでしょうか!?)に伴って、オフィス勤務を求められる側は、それならば辞めて別の仕事を、と考える人も多いようです。

という訳で、米国では大量の離職者が発生しており、今後もその動きが加速するとも言われています。

"Great Resignation"という言葉は、テキサスA&M大学の教授が用いたのが始まりとされています。


For four months in a row — a third of the year — a record number of Americans quit their jobs.

It's like nothing else we've seen in two decades. So when organizational psychologist Anthony Klotz coined the phrase "the Great Resignation," it resonated across the workforce — and media. He said it took off after he was quoted by Bloomberg Businessweek on how to quit your job.
(Juliana Kaplan. The psychologist who coined the phrase 'Great Resignation' reveals how he saw it coming and where he sees it going. 'Who we are as an employee and as a worker is very central to who we are.' Insider. October 2, 2021.)


上に引用した記事は2021年のものです。

この記事では、リモートワークを続けられないから、辞める、ということではなく、パンデミックを機会に、仕事との向き合い方を見直すようになった人が増えた、ということです。

(The) Great〜の言い回しは、"(the) Great Depression"(大恐慌)という言葉を想起させます。

大離職(時代)、とでも訳しましょうか。

日本においてはアメリカ人のように権利を主張する人が少ないからでしょうか、リモートワークが叶わないから離職するというような話はあまり聞きません。


2021年12月9日木曜日

shut up and dribble

来年2月開催予定の北京冬季オリンピックについて、米国は外交的ボイコットを決定し、日米間に改めて緊張が走っています。

中国による少数民族への弾圧に対する批判が背景にあるものですが、中国はオリンピックに政治を持ち込むべきでないという理由で反発しています。

英国やオーストラリアも米国に追随する姿勢を示しています。


Chinese officials are fuming over President Joe Biden's decision this week to stage a diplomatic boycott of the 2022 Winter Olympics in Beijing.

The United States won’t send any government officials to the February games to protest “ongoing genocide and crimes against humanity in Xinjiang and other human rights abuses," White House press secretary Jen Psaki said Monday.

Chinese Foreign Ministry spokesperson Zhao Lijian on Tuesday called the boycott “contrary to the Olympic Charter Principle that sports should maintain political neutrality.” He vowed China would respond with “resolute countermeasures” but offered no details.

“The U.S. will pay for its wrongdoing," Zhao said. "You can wait and see."

It seems the U.S., where athletes protesting injustice have frequently been met with calls to “shut up and dribble,” is getting a taste of its own medicine.
(Ja'han Jones. China tells U.S. to shut up and dribble. MSNBC. December 8, 2021.)


引用した記事で、"shut up and dribble"という表現が使われているのですが、何が言いたいのか分からず、慣用句か何かの類かと思ってしまいました。

文字通りに訳せば、黙ってドリブルをしろ、ということになります。

色々調べてみると、このフレーズには背景があることが分かりました。

2018年に遡るようですが、当時のトランプ大統領に批判的な発言をしたNBAのプロバスケットボール選手に対し、Fox Newsのキャスターがそれを咎めたという一件です。


Journalist Laura Ingraham sought to rebuke the Cleveland Cavaliers' LeBron James for "talking politics" during a recent interview — something the Fox News host believes is out of bounds for an athlete.

(中略)

Ingraham responded to his comments Thursday, calling them "barely intelligible" and "ungrammatical" on her Fox News program The Ingraham Angle.

"It's always unwise to seek political advice from someone who gets paid $100 million a year to bounce a ball," she said. "Keep the political comments to yourselves. ... Shut up and dribble."
(Emily Sullivan. Laura Ingraham Told LeBron James To Shut Up And Dribble; He Went To The Hoop. NPR. February 19, 2018.)


2018年の「事件」に関する記事を上に引用しました。

バスケットボールプレーヤーが政治を批判するようなことを言うもんじゃない、黙ってドリブルしてなさい、とでもいったところでしょうか。

この一件が世論で取り沙汰されたことを契機に、"shut up and dribble"は、スポーツ選手は政治的なことに口を挟むな、というメッセージを表現するフレーズとして定着したようです。

今回北京オリンピックの外交的ボイコットを表明したバイデン氏は、見方によっては「スポーツに政治を絡める」ということをやっているとも取れる訳で、"shut up and dribble"を逆手に取られる格好となっている、というです。

なお、バイデン政権は"shut up and dribble"せよ、と中国が本当に言ったのかは不明です。




2021年9月9日木曜日

menstruating person

テキサス州で女性の中絶を禁止する法律が施行され、大きな議論を呼んでいます。

女性による中絶の権利を認めるべきという批判が渦巻いていますが、民主党のアレクサンドリア・オカシオ=コルテス議員がCNNのインタビューの中で、中絶禁止法を批判する意見を表明するにあたって、女性(women)に言及するのに加えて、"menstruating person"という言葉を使いました。この"menstruating person"という言葉遣いがツイッターで槍玉に上がっています。

何が起きているのでしょうか?


Rep. Alexandria Ocasio-Cortez, D-N.Y., was roundly mocked on Twitter for using the term "menstruating person" instead of women in a recent interview.

On Tuesday, Ocasio-Cortez appeared on CNN’s "Anderson Cooper 360" to discuss Texas Gov. Greg Abbott’s statements on the Texas Heartbeat Act which prohibits abortions after six weeks. She claimed that the law was actually not "about supporting life" and instead was about controlling "women’s bodies" as well as "any menstruating person."

"None of this is about supporting life. What this is about is controlling women’s bodies, & controlling people who are not cisgender men. This is about making sure that someone like me as a woman or any menstruating person in this country cannot make decisions over their own body," she said.
(Lindsay Kornick. Alexandria Ocasio-Cortez mocked for using term 'menstruating person' to describe women in interview. Fox News. September 8, 2021.)


テキサス州の中絶禁止法は、妊娠6週以降の中絶手術を禁止するという内容ですが、オカシオ=コルテス議員は、月経が2週間くらい遅れるということはよくあることで、6週以降は中絶できないというのは女性と"menstruating person"の権利を侵害するものである、との趣旨の発言をしたものです。

"menstruating person"とは、「月経のある人」という意味になりますが、女性(women)に加えて、敢えて「月経のある人」について言及したのには、リベラルとしての同氏が昨今のLGBTQに代表される性的少数派に配慮してのものと思われます。

しかしながら、保守派層からはそのような言葉遣いを嘲るコメントがSNS上に展開されているというものです。

オカシオ=コルテス議員は、月経は女性のみならず、トランスジェンダーにもある、とコメントし、自身の"menstruating person"という言葉遣いを擁護しています。


Following the interview, Ocasio-Cortez doubled-down on her use of the term "menstruating people."

"Not just women! Trans men & non-binary people can also menstruate. Some women also *don’t* menstruate for many reasons, including surviving cancer that required a hysterectomy. GOP mad at this are protecting the patriarchal idea that women are most valuable as uterus holders," she tweeted. "Trans, two-spirit, and non-binary people have always existed and will always exist. People can stay mad about that if they want, or they can grow up."
(ibid.)


この問題は、人間の性を生物学的な観点から男女という二分法しか認めないとする立場と、男女以外にも多様な性的指向、性自認があり、そうした性的マイノリティに配慮した言葉遣いをすべきであるとする立場の衝突であると解釈することができます。

つまり、オカシオ=コルテス議員は後者の立場であり、“women”に加えて(あるいは“women”を言い換えて)“person(s)”としたのですが、前者の立場からすると如何にも“woke”な言い回しが滑稽に思えるということのようです。


2021年8月13日金曜日

"pregnant people"

新型コロナウィルス感染症を予防するワクチン接種について、アメリカの疾病予防センター(CDC)が、妊娠している女性にとっては接種が重要であるとのガイダンスを出したそうですが、そのガイダンスの「言葉遣い」を巡って炎上しているというニュースです。

何が問題なのでしょう?

記事のタイトルからは"pregnant people"という表現が槍玉に挙がっているようです。


Centers for Disease Control and Prevention Director (CDC) Rochelle Walensky came under fire Thursday for using the phrase "pregnant people" while recommending women getting the highly effective COVID-19 vaccine. 

"The rise in cases, vaccine hesitancy, and the increased risk of severe illness for pregnant people make vaccination against #COVID19 more urgent than ever. Read why @CDCgov recommends that pregnant people should be vaccinated against COVID-19," Walensky tweeted, with a link to the CDC website.
(Cortney O'Brien. Critics erupt after CDC's Walensky refers to 'pregnant people' in vaccine tweet. Fox News. August 12, 2021.)


問題はワクチン接種の推奨とか強制とかではなくて、感染した場合に、重症化のリスクがより高い妊娠している女性を指すのに、


pregnant women


と言わず、


pregnant people


と表現していることのようです。

この記事を読んで、いわゆるp.c.(political correctness)のことだと分かりましたが、近年、LGBTQと呼ばれる性的マイノリティに対してより配慮した表現が求められるようになっているところ、CDCがそれに沿った言葉遣いをしたことが、主に保守層の反発をかったようです。

日本語にしにくいですが、「妊娠女性」(pregnant women)とすればよいところを、「妊娠者」(pregnant people)と書いたようなものでしょうか。

男女という二分法的な概念を現代の多様性にそぐわないと考え、"men"や"women"とは言わず、"people"と言い換えるやり方は“inclusive language”と呼ばれ、その傾向は近年ますます強まっているようです。

以前取り上げた"misgender"もご覧ください。



2021年7月26日月曜日

cower

政治の要職にある立場の人の言葉遣いというものは慎重に慎重を重ねるべきもので、ひとたび言葉遣いを誤れば批判にさらされることは確実で、職を失うことにもなりかねません。

イギリス保健省のトップによるツイートもその類のものでしょう。

"cower"という、あまり馴染みの無い単語が槍玉に挙がりました。


Health Secretary Sajid Javid has apologised after saying people should no longer "cower" from coronavirus.

He made the comments in a tweet announcing he had made a "full recovery" from Covid, a week after testing positive.

(中略)

In a new tweet, the health secretary also said he had deleted his earlier post, adding: "Like many, I have lost loved ones to this awful virus and would never minimise its impact."

Cower is defined by the Cambridge Dictionary as meaning to bend down or move backward with your head down because you are frightened.
(Sajid Javid apologises for 'cower' Covid remark. BBC News. July 25, 2021.)


"cower"を辞書で引くと、


(恐怖などで)委縮する、縮こまる


とあります。

問題となったツイートは、先週末に投稿された以下のようなものだったということです。


The tweet on Saturday said: "Full recovery from Covid a week after testing positive. Symptoms were very mild, thanks to amazing vaccines.

"Please - if you haven't yet - get your jab, as we learn to live with, rather than cower from, this virus."
(ibid.)


自身が新型コロナウィルス陽性となったもののワクチンのおかげで重症化することなくその後回復を果たしたことに触れ、国民に向けてワクチン接種を勧めていると取れる内容と言えます。

一見問題ない内容にも思えますが、ウィルスの恐怖に「委縮する」とは、史上類を見ないパンデミック下でマスク着用やソーシャルディスタンスによる感染対策を余儀なくされている人たち、愛する家族や友人を失った人たち、また最前線で治療にあたっている医療従事者に対して無神経であるとの批判が起きたようです。

野党の労働党などからも批判を受け、担当相は謝罪、問題のツイートを削除したということですが後の祭りといったところでしょうか。

“cower”というスペルが、臆病なという意味の“coward”に似ているので関連があるのじゃと思いましたが、“cower”の方はゲルマン語系、“coward”についてはラテン語系(尻尾を意味するラテン語caudaに由来)ということで別物です。



2021年4月30日金曜日

alien

アメリカとメキシコの国境に中米からの移民が殺到している問題はバイデン政権における喫緊の課題ですが、ホワイトハウスは移民を指す表現を改める方針を明らかにし、合衆国税関・国境警備局(Customs and Border Protection; CBP)に指示しました。

具体的には、"alien"という表現を使わず、"noncitizen"、"migrant"などの表現に改める、というものです。

しかし、当の警備局がこの方針に反発しているということです。


Border Patrol Chief Rodney Scott has informed the head of Customs and Border Protection (CBP) that he will not endorse a new language policy that would see the agency stop using terms like "illegal alien" in favor of terms such as "undocumented migrant," Fox News confirmed Wednesday.

In an April 16 memo addressed to acting CBP Commissioner Troy Miller, Scott expressed his "official nonconcurrence to the proposed updated terminology for U.S. Customs and Border Protection communication and materials."
(Adam Shaw. Border Patrol chief tells CBP he won't endorse language policy that stops use of 'illegal alien'. Fox News. April 28, 2021.)


移民問題に対して、国境の壁を建設する強硬姿勢を取ったトランプ前政権に対し、バイデン政権はむしろ融和的な姿勢を取っているように思われます。

問題となっている"alien"という単語を聞いて思い出すことがあります。

昔勤めていた会社の同僚にカナダ人がいたのですが、その彼が日本国の発行する「外国人登録証明書」を見せて、その英語が"alien registration"とあるのを、"alien"とは酷い、と憤慨していました。

ところで、"alien"の定義を改めて確認してみると、外国人、公民権を得ていない在留外国人、という定義があることが分かります。

一方、"alien"にはよそ者、のけ者、といった否定的な意味合いもあり、またカタカナの「エイリアン」は有名な映画の影響で宇宙人のイメージがあるので、"alien"と称されることには抵抗が強いのかもしれません。

くだんの「外国人登録証明書」ですが、少し前に廃止されたらしく、「在留カード」というものに代わったようです。

この「在留カード」は、単にResident Cardと呼ばれており、外国人に関連する表現も"foreign residents"などとされており、"alien"は見られなくなっています。

単語の定義としても、法律の用語としても"alien"は間違いではないのでしょうが、やはり外国人が抵抗を感じることに配慮した結果でしょうか。

バイデン政権が見直しを指示した表現は以下の通りで、主に“alien”が改められるものとなっていますが、“illegal〜”が“undocumented〜”に置き換わっている点も注目すべきところです。


The Biden administration earlier this month instructed CBP and Immigration and Customs Enforcement (ICE) to make several changes on terminology relating to immigration:

"Alien" will now be "noncitizen" or "migrant."
"Alienage" will be changed to "noncitizenship."
"Unaccompanied alien children" will be "noncitizen unaccompanied children."
"Undocumented alien" and "illegal alien" will be "undocumented noncitizen, undocumented individual or migrant."
"Assimilation" will be "integration or civil integration."
"Immigrant assimilation" will be "immigrant integration." 
(ibid.)



2021年3月4日木曜日

Neanderthal thinking

アメリカ・テキサス州やミシシッピ州で、パンデミック感染拡大防止のために義務化していたマスク着用をやめるという動きが出ています。

これに対して、バイデン大統領が愚行との批判のコメントを出しましたが、その表現に注目が集まっています。


President Biden said on Wednesday that states like Texas and Mississippi are making a big mistake by ending mandates to wear masks to prevent the spread of COVID-19 at a time when the nation is making a push to boost vaccinations.

"The last thing — the last thing — we need is the Neanderthal thinking that in the meantime, everything's fine, take off your mask. Forget it. It still matters," Biden told reporters as he met with a bipartisan group of lawmakers in the Oval Office.

It was uncharacteristically harsh language from Biden, who has placed a premium on civility. And it comes less than a week after he visited with Texas Gov. Greg Abbott in Houston to talk about federal assistance for helping the state recover from deadly winter storms, and boost vaccinations in the state.
(Ayesha Rascoe. 'Neanderthal Thinking:' Biden Says Too Soon For States To Lift Mask Mandates. NPR. March 3, 2021.)


注目を集めているその表現というのは、


Neanderthal thinking


というもので、私もすぐに辞書に手を伸ばしたという次第です。

ランダムハウス英和辞書では、形容詞“Neanderthal”の意味として、


原始的な、野蛮な、暗愚な; 反動的な


とあります。

パンデミックがまだ完全に収束していないのに、マスク義務化を廃止するとは「未開のネアンデルタール人の如く」原始的な考えで、野蛮で、馬鹿げたことだと言っている訳です。(これに対し、ミシシッピ州知事は反論しているようです。)

ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)は、約50万年ほど昔にヨーロッパや西アジアに生息していたとされる人類の祖先です。Neander Valley(現在のドイツのデュッセルドルフ辺りにあったそうです)に住んでいたのでその名前がつきました。

バイデン氏のこの発言をきっかけに、Merriam-Websterオンラインでの"Neanderthal"の検索数が14,500%も増加したそうです。

現代人と比較すれば未開の時代の祖先ではありますが、その脳容積は現代人よりも大きかったということが分かっており(「サピエンス全史」)、このような不名誉な形容詞の意味合いで使われるようになったのはある意味で不当とも言えます。

バイデン氏はネアンデルタール人に謝罪すべきだ、という意見まで出ているとか。



2020年11月10日火曜日

今年の1語 ― lockdown

Collins Dictionaryが選ぶ、2020年、今年の1語に"lockdown"が選出されたそうです。  

説明の必要までも無く、新型コロナウィルスの脅威一色に全世界が染まったことを反映するものです。


The coronavirus pandemic has officially defined 2020.

UK-based Collins Dictionary has announced “lockdown” as its word of the year, with other pandemic related words close behind.

Defined as “the imposition of stringent restrictions on travel, social interaction, and access to public spaces,” the noun was one of six words in the dictionary’s top-ten of 2020 that related to the deadly bug.
(Kenneth Garger. ‘Lockdown’ named word the year by Collins Dictionary. New York Post. November 10, 2020.)


日本ではカタカナ語の「ロックダウン」や「クラスター」、「オーバーシュート」などの外来語を分かりにくい、「ロックダウン」については都市封鎖という日本語を使えばいいではないか、などと言われてきましたが、日本でもこのカタカナ語がほぼ定着したかのようです。

"lockdown"という単語の初出はMerriam-Websterによると1973年で、囚人を独房に閉じ込めておくことを意味していました。

Merriam-Websterオンラインでは、"lockdown"という単語の検索数が今年3月に前年比9,900%増加したそうです。



2020年10月27日火曜日

virtue signaling

 "virtue signaling"なる表現をご存知でしょうか。

下記の記事をきっかけに、初めてお目にかかりました。


White House adviser and President Donald Trump's son-in-law Jared Kushner came under heavy criticism after he said Monday that Black Americans have to want to help themselves in order for the president's policies to help them. 

Kushner said on "Fox & Friends" that the president can help people in the Black community "break out of the problems that they're complaining about, but he can’t want them to be successful more than they want to be successful." 

He also said that many people in the anti-police brutality and discrimination protests that followed the death of George Floyd in Minneapolis were "just virtue signaling" – a term for empty gestures of outrage or anguish on social media. 

"They go on Instagram and cry, or they would, you know, put a slogan on their jersey or write something on a basketball court," Kushner said, dismissing the expressions of outrage and solidarity that many made after video surfaced of Floyd being pinned with a police officer's knee on his neck. "Quite frankly, that was doing more to polarize the country than it was to bring people forward. You solve problems with solutions." 

Kushner's implication that Black Americans lack a drive to succeed and to address the problems facing their community drew criticism that he is blind to his own privilege and that his own success is attributable more to his family's wealth than his own efforts.
(William Cummings. Jared Kushner criticized after saying Black Americans need to 'want to be successful.' USA Today. October 26, 2020.)


ホワイトハウスのアドバイザーを務めるJared Kushner氏は、トランプ大統領の義理の息子にあたりますが、そのクシュナー氏の発言が炎上しているという記事です。

同氏の発言は主にアメリカ黒人に向けられたもので、黒人は成功のための努力が足らないと受け取られる発言が問題になっています。

また、ミネソタ州で起きた黒人が警官に首を押さえつけられて死亡した事件とそれをきっかけに各地で発生したデモやBLMという社会的ムーヴメントについて、


"just virtue signaling"


と、貶したとされています。

この"virtue signaling"については、記事中も、


a term for empty gestures of outrage or anguish on social media


と説明されています。

理不尽な黒人死亡事件をきっかけに声を上げる人たちのことを、中身のないゼスチュアをSNS上で展開し、対立を煽っているだけだ、と批判している訳です。

「美徳シグナル」と邦訳されるこの表現は、ウィキペディアによれば2015年頃から使われているそうです。

この世の中、実に様々な主義、主張があり、ネットではSNSを中心に誰もが自由に発信することが出来るようになり、またそれに対する賛同や反対の意見も誰もが表明できる環境があります。

ある主義や主張に対して賛同を示す時、強い信念に基づくものもあれば、表層的で、単にうわべだけのポーズのように感じられるものもあります。

具体的な例は挙げませんが、モヤモヤした気持ちになることも少なくないのではないでしょうか。

"virtue signaling"はそんなモヤモヤした感じを代弁してくれる術語なのかもしれません。(クシュナー氏の発言が適切かどうかは別にして。)

ウィキペディアの解説を読んでいたら、"slacktivism"とか、"humblebrag"とか、過去に当ブログでも取り上げた類語が取り上げられていました。

これらの用語も、SNS時代のこの世の中にあって、モヤモヤした気持ちを代弁してくれる表現だと思います。



 
  翻译: